代 表 挨 拶 

「良い思い」ー ペガサス20周年に思う

湘南ペガサスサッカークラブ 代表  井 上  孝

「湘南ペガサス」の発祥についてはすでに幾度も述べられているが、今日、そのメンバーの経歴はある程度多様化してきたとはいえ、その70%を湘南高校サッカー部のOBが占めていることは事実である。ある高校のサッカー部OBで、そもそもこの年齢までサッカーをやる者がこれだけいるということ、そしてそれが組織化されていることは特筆に値すると同時に、当然そうなる原因があるはずだと思う。なにかを持続するには、それに関して「良い思い」を経験することが必要なのではないか。かつて、ロンドン大学経済学部の森嶋通夫教授は、イギリスの教育が素晴らしいのは、良い人材が教育分野に行くからであり、その原因は学校で「良い思い」をした人たち(必ずしも成績の意味ではなく)が、同じ思いを与えたいと考えるからである、と述べていた。そう考えるとき、上の事態は「良い思い」の原点を多分湘南サッカーにもっているのではないかと思う。それは、サッカーそのもの、仲間、指導者、雰囲気、そして伝統に依るのであろう。

「伝統」というのはまことに捉えどころのないものだが、それを支えるものの一つとして行事やシステムがあるかもしれない。高校生のときなどは、その効用にまったく気付いてはいなかったが、毎年1月15日に行っていた「蹴球祭」の存在は大きいと、年齢を経るにつれて思うようになった。高校生にとっては、25歳も35歳も同じように見えるが、さすがに50〜60歳の先輩となれば、「ああいう歳で、あれだけ夢中に、楽しそうにできるのか」という見方をする。「蹴球祭」に現役やOBで参加しているうちに、自分もあの先輩たちの年齢までサッカーをやるということが当たり前のように思えてくるのではないか。久し振りに、当日、湘南のグラウンドに来てそういう光景を見ると同時に、OBが構成している各世代のチームの存在を知って、「そうか、また始めよう!」ということになる。こうして、ペガサスに入ったOBは幾人もいる。

「よい思い」は、もちろん蹴球祭だけではなく、湘南での3年間のすべてにわたる。部史に残る成果を挙げられれば言うことはない。多分、勝った思い出がもっとも「よい思い」になるだろうから。しかし勝利ばかりでなく、多面的な「よい思い」を若人が味わい、そしてその思いが最後にはペガサスでのサッカー参加に通じるならば、よいことである。そうした意味で、OBとして現役を支援することがペガサスにとって重要であるという認識から、湘南ペガサスの「会則」に、敢えて「湘南高校サッカー部に対する支援」の一項を盛り込み、メンバーに承認されているわけである。

「良い思い」には、指導者ももちろん欠かせない。ペガサスのメンバーの中では、ほんの数人ではあるが、昭和30〜36年にかけて、岩淵先生とともに宮原先生に指導されている者がいる。 当時、全盛時の東京教育大学のサッカー部で活躍された宮原先生は新卒の青年教師で、われわれの眼を見張る技術・体力によって、一流のサッカーとそれへの憧れを示してくださった。そして、なによりもわれわれに対して、つねに一個の人格として対応してくださったと思う。乱暴な言葉や、罵声を浴びた記憶は無い。あとから振り返ると、先生は、自らが旧制中学最後の世代であったろうし、学校は違っても、あるいはわれわれに後輩としての接し方をしてくださったのかもしれない。そうした意味では、岩淵先生にもまたその雰囲気を感じさせるものがあった。サッカーを紳士のスポーツというならば、これもまた「良い思い」のひとつであろう。

どんな組織であれ、それがヴォランタリーなものである限り、根気強く、献身的に尽くしてくれる人がいなければ、決して継続されない。その点で、わが「湘南ペガサス」における故・大内健嗣氏の存在と功績を疑う者はだれもいない。いま、アルバムを繰ると小生が高校生の時の蹴球祭での集合写真に大内先輩も当然写っており、その出会いもまた蹴球祭であったことがわかる(もっとも、大内さんは試合にはよく応援に来てくださって、われわれに「大人の大学生」への憧れをもたせてくれたが、これもまた「良い思い」)。約20年前の肺の大手術から不死鳥のように蘇って、20数年間のペガサスを支えてくださったが、この記念誌に自ら登場しえないのは、真に残念である。改めて、ご冥福と感謝の意を表したい。

さて、「湘南ペガサス」結成時には、30〜40歳台だった者たちが、すでに60歳以上になって、仕事の面でも次々と現役を退くようになってきた。わずかにゴルフ、テニスなどを除けばクラブ組織のほとんどないわが国において、リタイア後の人生で趣味を同じくする仲間たちと年中顔を合わせられることは素晴らしい。毎日家にいるようになったからとて、急に地域社会に溶け込めはしない。とはいえ、高齢化社会、先は永い。サッカーの仲間たちとの付き合いは真に嬉しく、頼もしくなるはずであり、これからペガサスが一層その存在意義をわれわれに与えてくれると思う。サッカーにおける「良い思い」は、経歴の違いはあっても、ペガサスのメンバーに共通なものであろう。この多様なメンバーが、クラブ結成50年目に、このクラブで「良い思い」をしたから続いてきたのだ、と思うようにしたい。クラブライフを楽しむには、もちろんその本拠地があるのが理想であろう。「湘南ペガサス・サッカークラブ」がグラウンドとクラブハウスをもてるようになったら素晴らしいだろうなあ、と夢のようなことを考えている。 

(湘南高校サッカー部OB会副会長 昭和36年湘南高卒)